インタビュー

『がんばれ、キラメキびと』 第10回 対談者 湯川 裕紀さん

シリーズでお送りしている、狩谷亮裕さんのインタビュー企画。
『がんばれ、キラメキびと』
前向きに取り組む仲間の活動を紹介することで、一人でも多くの人たちを勇気づけられ
たらとの願いから始まった。

インタビュー10回目は、湯川裕紀 さんとの対談を紹介する。

プロフィール

今回のインタビューは印南町にある就労継続支援B型事業所「ケアサポートかえる」で所長を務めている、湯川裕紀さんとの対談を紹介する。
前職では工場で機械のメンテナンスを中心とした仕事を15年間していた。相談支援専門員で、介護事業所での勤務経験もある兄からの誘いがきっかけで現職にいたる。

会社を立ち上げた当初は、就労施設を利用したい人を受け入れる受け皿となる場所が少なかった。だが、利用希望者との面談や関係者との話の中で、「来たい・働きたい」という声の多さに驚かされる。「ケアサポートかえる」の親会社『合同会社タノクラ』の代表でもある兄らとともに、家族で日々奮闘中である。

兄の「地域の人たちが少しでも”しくらせるように”寄り添いたい…!この思いに心動かされ、一念発起で立ち上げた会社は、今年で3年目に突入している。
今回のインタビュアーである私もここを利用している1人である。

前職では、機械の異音や細部の調節などに敏感に対応していたが、手を加えることによる変化を見るのがとても楽しかった。機械から人へ変わっただけで今は、「人の心に寄り添う」ということを大事にしている。機械も人も”変化を見る”という意味では共通するものがあるのではないか。やりがいのある仕事です、と静かに微笑んだ。

”過程”を大切に
~メンバーとして何ができるか~

狩谷
狩谷
タノクラは””しく””らすという意味を持つことも知り、共感を覚えました。
湯川
湯川
地域包括支援センターなどの「場所」だけでなく、困っている「人」の動向にも目を向けなければならない。本人はもちろん、家族が安心できる場所を作ることが必要だと感じました。

自分が出来ることをケアサポートかえるで活かせる。こんなことをやりたい!という気持ちがこの場所に来ることにもつながっていく。その繰り返しで、ここへ来たら「楽しい」と思えてもらえたらいいかな。

狩谷
狩谷
それぞれの利用者さんの得意な部分や、やりたい!という気持ちを活かせる場所にということですね。
湯川
湯川
この仕事をはじめて、様々な人と会って色々接していくうちに、利用者さんから「〇〇さんに会えるから行きたい」という声を聞くことがあって。そういう反応を聞くと、僕としても嬉しいです。
狩谷
狩谷
それは私も感じます。共調し合っていい場所になっていますよね。利用者さん同士の「元気?」、「よう来たな」などの何気ない言葉が自然に飛び交っているのが心地よく、風通しの良い場所に感じます。
湯川
湯川
兄はよく「ここへ来る人はみんな社員=メンバーだ」と言っています。その思いは、自分も共有しているので、きっちり受け継いでいるつもりです。

作業所という性質上、B型就労からA型に、そして一般就労へという流れに沿って支援することも大切だとは思いますが、それだけではなく、メンバーとして共に何かをしていく”過程”を大切にしていきたいかな。

狩谷
狩谷
過程を大切にするということは、本当に大事ですよね。反面、仕事を探したり、納期に間に合わせたりと。湯川さんの立場ならではの大変なこともあるのでは?
湯川
湯川
トマトのパック詰めや、教育委員会から委託された清掃の仕事はあります。しかし納期に追われる仕事はあまりない。追われる時は、朝とかに言ってるの聞いてるかもしれないけど、みんなに声をかけて思いを共有し、助け合っていくことを心がけています。この”過程”を大事にしたい。

今はいくつか仕事が定着してきています。主には、かえる弁当。他に手芸・HP制作・ゴミ収集や洗車など。手芸に関しては、弁当を買いに来てくれるお客さんから、安くて良い品物だと評価もいただいています。

こんなに安くていいのか!? との声も受け、値上げも考えましたが、この値段で勝負すると決まったので、現状はこれで進みます。

狩谷
狩谷
利用者として初期から景色を見てきた感想を言うと、最初は決まった人だけが手芸をしていたが、今は裾野が広がって手芸を「楽しむ」人が増えてきたように思います。

利用者さん同士で教えあったり、一緒に考えたりしている光景を見ていると、1人でHP制作をやっていた身としては、「共有できる仲間がいるっていいなぁ」と、少しの孤独と羨ましさを持って見ていた時期もありました。

湯川
湯川
何かを共有して、一緒に進めていく仲間は必要!ここにいるみんなが真面目で、他の人の気持ちを思いやれる人が多い。だから誰かが困っているのをよく見ているし、気持ちや思いやりに対して応えたいと頑張ってくれる。僕としては、このような気持ちの交流を崩したくない。
今、これをすれば○○さんは助かるだろうという気持ちを持ってくれたことを尊重したいんです。
湯川
湯川
でも、時には失敗し「せっかくしたのに、何でそんなこと言われるん?」と気まずい雰囲気になることもあります。そんな時には、どうしてそうなったのか?相手の気持ちとして、どう思うだろう?など、丁寧にゆっくり話し合い、次の行動につながるように心がけています。
「手芸」担当の利用者さんたちが、腕に振るいをかけて作った商品。
反響の多さに、思わず社長もニンマリ!?

物理的な居場所・心の居場所

狩谷
狩谷
次のプラスのアクションにつながるようにですね。

この作業所としてすごいなぁと感心しているところがあって。
それは、注文などの電話での対応マニュアルを作っていて、誰でも応対が可能にしていること。目安箱を作り、そこで出たものや、利用者から聞いた意見を会議で話し合ってくれているのが付箋で貼られていて、見える化しようという気持ちが表れているところなどです。

狩谷
狩谷
大体の企業・会社は、3年目ぐらいになると、慣れや怠慢の気持ちも出てくるころだが、この会社はそれがない。掲示板に書かれている、「守ってほしいこと」や、「担当の職員さんに聞いてみよう」などもそうですが、誰もが目にし、気付けるようにしてくれている。もっと良くしていこう!という気概が感じとれるのが、いい会社だなと。
湯川
湯川
この会社に入るにあたって「話を聴いて、汲み取って、解決していくそういう人間になって欲しいし、そういう人をたくさん育ててほしい、兄からこのように言われました。

兄弟ではあるけれど、いち社員として、所長としても、みんなの不安や疑問をそのままにしておくのではなく、少しでも解決していけるひとでありたいなと思っています。

狩谷
狩谷
タノクラの経営理念の一つに、「例え当社を離れても、どこでも活躍できる人材育成を目指し、支援します」とありますが、ここに来る人みんながメンバーだという、社長の思いを尊重するのなら、職員だけでなく、私たち利用者にも当てはまると考えられます。

この経営理念は、先ほどの「汲み取って、解決していく」という湯川さんの言葉にも通じますよね。

湯川
湯川
初めてこの経営理念を見た時の率直な感想は、「寂しい」だった。今まで一緒にいた仲間が離れていくのは寂しいし、何と残酷なとも思った。でも、僕自身もそうだったし、社会でも転職するのが当たり前とまではいかなくとも、その機会が人生の中で多くなっていることを考えると、ここから出て、新しいことを見つけて・取り組み、そして成長していく…。そのための過程なら、それもありかなと最近やっと思えるようになってきました。
狩谷
狩谷
先ほど湯川さんは、「メンバーとして共に何かをしていく
”過程”を大切にしていきたい」と言ってくれましたが、B型就労→A型就労。そして一般へ就職 というのも考え方としては、どちらもあっていいですよね。
湯川
湯川
一般就労を目指すというのはひとつの『挑戦』なので見届けたいし、応援したい。
でも、もしそこで上手くいかなかったら、またここへ戻ってきたらいい。それをこちらも、温かく迎え入れる。タノクラがそういう”居場所”になれたら良いと考えます。
狩谷
狩谷
居場所作りって本当に大事ですよね。ここへ来てしばらく経ったころに、湯川さんのお母さんが「ここを第2の家と思ってくれたらいい」と言ってくれたことに、心がホッと温かくなりました。

他の利用者さんから私に、「自分はこの先A型へまた戻りたいんだけど、また働けるようになるかな?」と胸の内を明かして、相談してくれた方がいました。

湯川さんと同じで、私も仲間が離れていくのは寂しいけど、その人の夢がかなって、ここを離れるとなった時、自分は何と声をかけるだろう?と時々その場面を想像する時があります。イメージの中では「私も寂しいけど、応援します。またたまに立ち寄った時にでも、土産話をたくさん聞かせてください」と声をかけています。

実際となるとうまく言葉が出るか分かりませんが、利用者さんも職員さんも同じように「私も寂しいけど応援しています」と言える人でありたいですね。

湯川
湯川
ここを離れていった職員とも出会って話す機会があります。その時に近況報告を聞きます。
みんな元気にしてるよ。(そのうちの1人は)2ヶ月に1度くらいのペースで、自分が作った野菜を届けてくれる人もいる。かえるのメンバー間で強い絆があるのかなと感じます。
狩谷
狩谷
「絆」何かいいなぁ…。絆とか、人としての繋がりって大事ですね。また、物理的な居場所だけでなく、心の拠り所 としての居場所も大事。私もふとこの先、『親亡き後』をどうするか?と考え込む時がありますが。家族以外のつながりを持つということも、生きていく上では必要ですよね。
湯川
湯川
近くの人も支えになってくれるしね。今回僕はインタビューを受ける側で話し手になったけど、僕はあまり自分のことを話したり打ち明けるのは苦手で、自分から発信しようとは思わない。仕事でもそうで、どちらかというと相手の話を引き出すのに徹することが多くて。自分でも聞き手の方が向いているのかなと感じる。
狩谷
狩谷
確かに。前にも、話を聞いて一杯一杯になっても、「ほとんど一晩寝たらイライラも忘れるし、整理もつく」って言ってましたもんね。
湯川
湯川
自分はあまり感情的になることは少ないし、「あ、今自分のことを悪く(=批判的に)言われているなぁ」と思っても、言い返したりせずに、事実として受け止めて冷静に、ゆっくりと丁寧に聴くことができるほうかな。お互いが気持ちよく仕事ができるようにしていきたい。

ケアサポートかえるの目指す今後の”飛躍”
~部署を作り、ビジネス的な側面も考えながら~

狩谷
狩谷
最後に、これからのケアサポートかえるが目指していることや、それに向けての抱負などあれば教えてください。
湯川
湯川
さっきも言った『居場所作り』と、ここに通えることを大事に続けていきたい。At homeな雰囲気。これがケアサポートかえるの魅力かな。人が変わろうが、建物が変わろうが、かえるは変わらずにそこに在る、そんな場所であり続けたいです。

今後の課題・目標としては、仕事をするメンバー(利用者・職員も含めて)で部署をつくり、その部署ごとに今後の活動について話し合う場を設けたい。そして、そこで話し合った内容を全体の場で報告していく。このように売上などのビジネス的な側面も考えながら取り組んでいけたらいいなと考えています。

狩谷
狩谷
職員の頑張り(影の努力)が大事という経営者側の事情はよく聞きますが、利用者と職員が一体となり、メンバーとして一緒に進めていくというのは、斬新で魅力的ですね。あまり例がないのでは?
湯川
湯川
そうかもしれません。でも、それがやりたい!!職員の思いだけで先走るのではなく、「他のメンバーはどう思っているだろう?」という利用者の考えも取り入れながら。その
”過程”を大切にしながら。

自分の意見を言える利用者の方が多いこのメンバーなら、実現できると思います。

狩谷
狩谷
実現、楽しみにしています。今日はありがとうございました。
湯川
湯川
ありがとうございました。
皆さんのご来店、心を込めてお待ちしております。