インタビュー

『がんばれ、キラメキびと』 第12回 対談者 森 一也さん

シリーズでお送りしている、狩谷亮裕さんのインタビュー企画、
『がんばれ、キラメキびと』。
前向きに取り組む仲間の活動を紹介することで、一人でも多くの人たちを勇気づけられ
たらとの願いから始まった。

インタビュー12回目は、森一也さんとの対談を紹介する。
今回インタビューさせていただいたのは、行政書士たんぽぽ法務事務所、行政書士の森一也さん。
森さんは7年ほど前に子どもに知的障がいがあることを知り、少しでも多く一緒に過ごす時間を持ちたいと考えていた。子どもの将来を守れるようにと様々な勉強をされた森さん。
昨年3月末で以前勤めていたところを早期退職し、現在に至る。自分の子どもだけではなく、他の障がいを持っている人の助けをしたいとの思いを熱く語ってくれました。
事務所を開業して約1年が経つ現在でも、毎日が勉強の日々。セミナーや相談にと忙しい日々を送っている。

和歌山ではまだまだ知られていない『任意後見契約』
~娘のためにと勉強し始めたこの制度をもっと広めていければ~

狩谷
狩谷
自分の子どものことで”任意後見契約”をするのは、ここ和歌山では少ないのではないですか?
森
全国的にもまだまだ知られていない中で、未成年者 というのは、ごく少数です。
お年寄りの方ではよく見かけますが、任意後見契約を、自分の子どものために使ったのは、和歌山でははじめてかもしれません。

大阪の方では少し例もありますが、和歌山ではまだまだ知られていないので、これから広めていければいいなと思っています。

狩谷
狩谷
私も障がいを持っているので、ヘルパーなどいろいろな人やサービスと関わっているのですが、私の利用しているところは、脊損・頚損(けいそん・せきそん)の方が多く、高齢者の方が利用者層として多いです。

いろんな方と交流を持たせてもらって、このような制度が必要だと感じます。

森
制度自体がすごく難しいというわけではないのですが、使われている言葉やイメージ、そもそも一般の人からすると日頃聞きなれない言葉も多いため、難しく感じて広がりにくいのかなと思います。

任意後見契約は、家族が後見人になれる。家族、特に親御さんは自分が元気なうちは、何としても子どもを支えたい!自分が見なければ!という思いが強い。そういう気持ちをカタチに出来るのが「任意後見契約」です。費用はかかるけれども、自分や自分の子どもさんのために、広まって欲しいです。

狩谷
狩谷
子どもの時からこの制度を使っておけば、親も長い期間見守れるので安心につながりますね。

この制度を知ってもらうために、支援学校でもお話しをされたと伺いました。

森
はい。たちばな支援学校の保護者学級や印南町の障害児者父母の会でもお話ししました。今までは無料セミナーとしてやってきましたが、今月からは、内容的にもそろそろお金をいただいてもいいかなと思い、有料にして活動しています。

任意後見契約をもっと知ってもらうために…
~地域の講演だけでなく、支援学校などでもセミナーの場。私の熱意が少しでも伝われば~

狩谷
狩谷
地域での講演だけでなく、支援学校などといった、
親子が集まる、生活の場により近い身近な場所で
お話しするキッカケをつくられたのがすごい。
森
子どもが未成年のうちに、親が親権を持っている間にこの制度をつかうのが一番いいという、私の経験からの思いもあります。そのことを話していたら、その熱意を汲んでくれたのか、支援学校でお話しできる機会をいただけまして。本当にありがたい限りです。
狩谷
狩谷
親はもちろん、子どもも自分の将来に関わってくるかもしれないことなので、「知る」ということは大切。
まだ支援学校にいる、ある程度守られているうちからこのような機会が持てるというのは、生徒の立場から考えても重要なことだと感じます。

先ほどから話を伺っていると、森さんの優しさと熱い思いが伝わってきます。

森
それが伝わっているなら、嬉しいです。(笑)
私はアナログな人間なので、ネットでのサービスというのは…。それに、私自身が直接会って話を聞かせてもらいたい!その人のことを親身になって考えたい!というのを大事にしているのもあるのかなと。

実際、私のところに相談に来てくれた人に「何でここを知りましたか?」とその手段を訪ねると、ほとんどが「知人の紹介から」で、圧倒的に口コミが多いんです。
1人インスタで見たという人もいたかな。

狩谷
狩谷
田舎では、まだまだ口コミや新聞といったアナログな手段が健在ですね。
森
そうですね。そうやって私やたんぽぽ法務事務所のことを知っていただいた人に、話を聞くだけでもいいから聞いてもらいたい。今は必要と感じなくても、まずは少しでも知って、気に留めておいてもらえれば。
狩谷
狩谷
そうですね。先ほど森さんが言っておられたように、制度自体が和歌山で広まっていないというのもあるでしょうし、親目線とすれば、他人に頼らずとも、自分がまだこの子のために動けるしという思いもあるでしょうし。いずれにしても、今すぐ理解が広まるという風にはなりにくいのかも。
森
私の子どもの同級生の親御さんは40代ぐらいなので、まだそんな制度は必要ではないと思うのかもしれません。今はお金の管理もキャッシュカードを作っているから大丈夫だと考えている人も多い。

しかし銀行の取引の関係で、後見人を付けてほしいと言われることもある。成人になって後見人を立てるとなると、親の希望や思いとは別に、親ではなく別の人が後見人になることもある。家庭裁判所(以後「家裁」と表記)の決定が親の思いとは別になることも。

例えば、社会福祉士や司法書士、弁護士など、自分の思う人と違う人や全く知らない人が後見人になると、不安を感じる親御さんもいるのでは。後見人と親御さんの思いや考え方のちがいなど。

森
例えば、親としては、子どもの大好きな物を買ってあげたいとか、好きな場所・楽しめるところに連れて行ってあげたい…。となっても、家裁の決定の時から入った後見人の人からしてみれば、「いやいや、そんなところにお金を使うなんて無駄ですよ。貯めておいた方がいいんじゃない?」となるかもしれません。

それはそれで、これからの子どもの人生を考えるとある意味正しいかもしれないけど、ずっと一緒に過ごしてきた”親御さん”としては、何かちょっと違う気がするなぁと感じるかもしれません。

親は自分が死ぬとか、動けなくなるその時の、本当にギリギリまで子どもに関わっていたいし、こんなことは無理なんだけど、死んだ後でも、幽霊になってでも世話が出来るならしてあげたい!と(笑)。

森
今は、お年寄りも子どもも、精神・知的・身体それぞれ違う障がいを持っていても、すべて同じシステム。
(今までも見直されてはきていますが)今後も、成年後見制度がもっと使いやすいシステムになってくれることを期待しています。

障がいを持つ人の”自立”
~頼ることを躊躇(ちゅうちょ)しないで必要な時は頼れる人になってほしい~

狩谷
狩谷
親亡き後、どうやって生きていこうかと、私も考えるときはあります。
この人になら頼れる。この場所なら安心できる。そんなこころの「拠り所」があればいいですよね。急に知らない人に自分のことを任せるのは不安だし、制度がよくなるのも時間がかかる。
とにもかくにも人間関係を繋いでいくことが大切なのかなと。
森
障がい者の人の「自立」ですね。
私も少し前までは、『何でも自分でできる(する)ことが自立』だと思っていました。ところが

これはこの人に助けてもらえる という、『頼れる人や頼れる先を持っていることが本当の意味での自立』なんだ
ある大学の先生が言われた言葉が印象的です。それを聞いた時は私自身も目からうろこが落ちる思いでした。

ヘルパーの人や職場での人間関係。近所のよくいくスーパーのレジの人など。たくさんの場所で人とのつながりを持っておくことが大切です。「今日は○○くんの様子、いつもとちがったなぁ」。そう気にかけてくれることが、ちょっとした変化に気付くサインになる。

森
世の中信用できない人も多いけど、自分のことを助けてくれる・手を差し伸べてくれる人はそれよりもたくさんいるということです。

こうした頼れる先は、親亡き後には特に大事になってきます。とにかく親にとっては、心配だけが2倍にも3倍にも大きく膨らむものだから…。

狩谷
狩谷
「障がい」という概念の捉え方によって、それは生活全般、そして障がい者や健常者、老脈男女問わず言えるのではないかと思います。
私もサイトに書かせてもらっているのですが、例えば2階へ行く場合。私は普通では階段を上れません。

しかし、エレベーターを使う。もしくは杖を使って階段を上るなど何らかの手段を得たならば、私にとって、「階段を上る」という行為や、「階段」という、物理的な障害は、もう”障害”ではなくなる。

シリーズ「インタビュー企画」名変更のお知らせこの度、Cosmo Rose(コスモローズ)でお送りしているインタビュー企画『障がい者にエールを』を統合し、『がんばれ、キラメキびと』に...
ごあいさつみなさん、こんにちは。狩谷亮裕(かりや・りょうすけ)です。 当サイトを作った時に、「ごあいさつ」を作ったのですが、こちらのサイトの...
狩谷
狩谷
そういう物理的な障害もそうですが、今の世の中健常者であっても、例えば、”仕事や恋愛など、近い将来そんなことで悩まなくなるであろうことでも、どんな些細なことでも『今、悩んでいる』のならそれはもうその人にとって障害=乗り越えるべき壁である”。

これは障がい者・健常者問わずに言えることだし、人間関係など、広く含めて(障害物競走の「障害」と同じように)これを障害と定義するのであれば、広義の意味での「障がい者」は
誤解を恐れずに言うと、ほぼすべての人に当てはまるのではないかなと思うのです。それだけ障がい、つまり生きづらさを感じている人は多いのでは?と。

森
(障がいを持っている部分に関しては)健常者の人と同じようにとはいかないかもしれないけど、障がいがあっても本人が楽しく活き活きとすごせればと思います。
狩谷
狩谷
人と人、人と地域などの”つながり”が出来ればいいですね。
森
頼ることを躊躇(ちゅうちょ)しないで、必要な時には頼れる人になってほしい。

そして、頼られた側も、自然に手を差し伸べられる。ほんの少しの”勇気”を持っている。そんな障がい者・健常者問わず、誰もにやさしい人や地域であってほしいと思いますね。

狩谷
狩谷
私が支援学校に在籍していたころとは、外部から講師などその分野の専門家の方を招いて授業を行うなど、ある意味で大学のようなスタイルが取り入れられるといったように、
支援学校の環境や体制も変化してきているように感じます。

そのように整備されていく中で、『自立』の意味や捉え方も変わってきたのでは。

森
私自身も、まわりの親御さんも、『何でも自分でできる
(する)ことが自立』だと思っている人が多かったのでは
ないかなと思います。ところが、さっき言ったように、

『頼れる人や頼れる先を持っていることが本当の意味での自立』と言われたときは、自分のことは何でも自分でするのが基本!というのとは全く逆の発想で、本当に目からウロコでした。

頼れる人が他にもいる。頼ってもいいんだ!と分かると親にも安心感が生まれる。自分が死んだ後の不安が少しは軽減される。

狩谷
狩谷
そうですよね。

セミナーをしてみて感じること まずこの制度を知り、活用してもらいたい
~私自身も制度のことや将来の夢に向け毎日が勉強中の日々~

狩谷
狩谷
最後に、実際セミナーなどを開かれてみての感想や、将来の抱負などお聞かせください。
森
こんな制度知らなかった!もっと早く知りたかった!と言ってくださる方が多いです。成人すると何もかも自分で契約する必要がある。

実際、グループホームのお話なんかを聞くと、将来自分の子どもがホームで「暮らす」ことのイメージはつくが、自分に何かあった際の後見人を誰にするのか?という質問をよく受ける。ということで、やはり親御さんの声としても「親亡き後」を心配される人が多かったです。

まずはこの制度を知ってもらい、活用したい・活用できる人は使ってもらうことが大切かなと。
成人した後も、役に立つ制度が他にもあるので、相談してもらいたいです。

狩谷
狩谷
成人してからや、支援学校などを出て自立した後、自分がどのように生活していくかのイメージができれば安心ですね。
森
重い知的障がいのある子どもさんがすでに成人されていて、判断能力が十分でない場合は『家族信託』という制度もあります。
これは、『第三の成年後見制度』などと呼ばれていて、私自身も毎日勉強と気づきの日々です。そしてこれらの制度を、もっと広めていきたいです!

そして、これはまだまだ将来の”夢”の段階の話で、どこまでできるか分からないけど、子どもや他の誰かの居場所を作ってあげたいと強く思う。将来的には、就労施設やグループホームなども作りたいと考えています。

狩谷
狩谷
森さんのような行政書士。いわゆる士業で、法律やビジネスにある程度の専門性を持っておられる方。

何より、障がい・福祉の業界の当事者に対して、これほどの愛と強い思いを持っておられる方が参入してきたとなれば、現状の作業所などをまた違った側面から支えられ、より強力になるのではないかなぁ。

森さんのような、強い愛や思いを持っている方に、ぜひ実現してほしいです。応援します。

森
そういってもらえると嬉しいです。(笑)
自分が元気でがんばれるうちに、情熱と真心を持って、アナログな人間だからこそ、人との出会いを大切にして、自分の話を聞いてくれた人の心に響かせたいと思っています。
狩谷
狩谷
今日は、ありがとうございました。
森
ありがとうございました。

編集後記 自分が引退した後も地域に根付いた場所であり続けたい
~根底にある子ども・地域への『真心の愛』~

インタビュー終了後に、事務所のロゴについて語ってくれたことが印象に残っているので、編集後記として掲載したいと思います。
事務所の名前にもなっているたんぽぽ。これは、子どもさんが好きなたんぽぽの花をベースに知り合いの方にデザインしてもらったとのこと。

右上にあるハートに注目すると、ハートの上に2本の点があります。デザインを制作した知り合いの方によると、
「森さんのところに子ども2人おるやろ。これ(点)は子どもさんやで。」と言われたそう。

他にもスミレの花や、同じタンポポにしても何パターンかデザインを考えていたそうですが、子どもさんが好きなたんぽぽ。そして、「2人のお子さんをイメージした」というお知り合いのデザイナーさんのあたたかな心遣いに触れ、現在のロゴデザインに決めた という経緯があるとのことです。

また、「森行政書士法務事務所」のように、自分の名前を事務所名に入れようかとも一度は考えたそうです。しかし、将来自分が信頼できる人に、この事務所を引き継いでいってもらえるよう、自分が引退した後も、この場所でやさしく・それでいて力強いたんぽぽの根のように、地域に根付いた場所でありたい・あってほしい との願いから、あえて事務所の名前に個人名は入れないという決断をしたと語ってくれました。

たんぽぽの花言葉には、「愛の神託」・「真心の愛」・「幸せ」などがあります。
森さんが、成人した後の任意後見契約の代わりになるとして、現在猛勉強中だと語ってくれた『信託』とは字が違いますが、同じ読み方であること。そして、
森さんの、子どもといる『幸せな』時間を大切にしたい、と語ってくれた言葉からもわかるように、春を告げるあたたかで、希望の光をあらわしているかのようなたんぽぽの色に負けない、鮮やかで志の強い情熱がそこにはありました。

前職を早期退職した今もなお、子どもさんのことを真に思い、考え、新しい場所で新しい制度など。決して楽ではないことを知り、深め、それを地域に広めようと日々情熱を注いでいる。その姿勢の根底にあるものこそ、他でもなく子どもへの『真心の愛』そのものだと感じました。